大丈夫かもしれないけど、心配。
そういう怪我で一番多いのは「頭をぶつけた」ではないでしょうか?
「頭をぶつけたけど心配なので診てください」という患者さんは救急外来にも多くこられます。
患者さん(やご家族)の「診てください」は「検査してください」であることも多いです。
頭をぶつけた時に心配されるのが「頭の中に何か起きていないか」だと思います。
診察をして検査をする必要がなければ、その旨をお話しています。ほっとされるかたもいれば、がっかりされる人も・・・
今回は、お子さんが頭をぶつけた時(つまり、小児の頭部外傷)に、どういう状況であればCT検査を行うのか、について解説します。
医者がどういう情報や過去の研究をもとにその判断をしているのか、お伝えできればと思います。
<頭をぶつけた時に行う検査>
頭をぶつけた時に検査を行う目的としては、頭の中に損傷(頭蓋内損傷つまり、頭蓋内出血や脳挫傷)がないか、頭蓋骨の骨折がないか、が主に挙げられます。
これを調べるための検査として、最もよく使われるのがCT検査です。
レントゲンでは骨折はわかりますが、骨折のない頭の中の損傷はわかりません。
MRIという検査もあります。MRIはCTと異なり被曝がないというメリットがありますが、検査に時間がかかるというデメリットがあります。
以上のメリットとデメリットを考えると、頭部外傷でまず行う検査としては頭部CTということになります。
<どういう時にCT検査が必要?>
どういう患者さんに対して頭部CT検査を行う必要があるか、ということは昔から多くの研究がされています。
1:PECARN(Pediatric Emergency Care Applied Research Network)参考文献1)
2009年にアメリカで行われた研究。
転んだだけや、止まっているものに頭をぶつけた、などの軽症頭部外傷を対象としています。
患児を2 歳未満または2 歳以上18 歳未満に分けて意識レベルや意識消失の有無、受傷機転などから頭部CTの推奨・非推奨を示しています。
〇PECARNにおいて頭部CTを推奨する受傷機転
<転落・墜落の高さ>
〇2歳未満:3フィート(約0.9m)以上の高所からの墜落
〇2歳以上18歳未満:5フィート(約1.5m)以上の高所からの墜落
<高エネルギー外傷>
車外放出、同乗者死亡、横転事故、歩行者又はヘルメットのない自転車対車の事故、衝撃が強いもの
2:CATCH(Canadian Assessment of Tomography for Childhood Head injury)参考文献2)
2010年にカナダで行われた研究、0歳から16歳までの頭をぶつけてから24時間以内の患者さんを対象としています。
診察時の意識レベルがおおむね保たれていてるが、目撃された意識消失、限定された記憶喪失、見当識障害、15分以上間をあけて2回以上吐くなどがあった患者。
その中で、以下の7項目のうち1つでもあれば頭部CTが推奨とされています。
〇高リスク群:脳神経外科的な治療介入が必要
1:受傷後2時間たっても意識レベルがいつもと違う
2:頭蓋骨の開放がある、または陥没骨折が疑われる
3:悪化する頭痛がある
4:診察時に興奮状態である
〇中リスク群:頭部CTをおこなったら頭蓋内病変が見つかる可能性が高い
5:頭蓋底骨折の所見(目の周りや耳の周りの皮下出血など)がある
6:頭皮に大きな血腫がある
7:怪我をした状況が危険(強い力が頭に加わった状況)
3:CHALLICE(Children’s Head injury Algorithm for the prediction of Important Clinical Events)参考文献3)
2006年にイギリスで発表された基準。対象は16歳未満。
以下の14項目に該当していなければ、頭蓋内病変をきたしている可能性は低い(つまりCT検査は不要)という研究です。
1:5分以上の意識消失
2:5分以上の健忘
3:傾眠傾向
4:3回以上の嘔吐(連続した嘔吐は1回とする)
5:虐待の疑い
6:てんかんの既往歴のない患者でのけいれん
7:GCS<14(1歳未満ではGCS<15)
8:開放骨折、陥没骨折の疑い、または大泉門膨隆
9:頭蓋底骨折の所見(耳出血、パンダの目徴候、髄液漏、バトル徴候)
10:神経学的異常所見
11:1歳未満では5cm以上の皮下血腫や打撲痕
12:高速いスピードでの自動車事故
13:3m以上の高さから落ちる
14:速く動く物体との衝突
<結局医者は何を見ているか>
この3つの方法のうちどちらが優れているかをオーストラリアとニュージーランドで比べた研究もありますが、結局は臨床医の判断が優れているという結果でした(参考文献4)。
最初にご紹介したPECARNが日本でも安全に適応することができることを示した研究もあります(参考文献5)。
様々な研究を背景として、医師は以下の4点に注目をしています
1:診察で危険な所見がないか
2:怪我をしたときの状況が危険ではないか
3:怪我をしてから受診までの間に嘔吐やけいれんがなかったか
4:そして、今の様子がいつもと大きな変わりがないか
「いつもの様子」が分かるのは、ご家族であり付き添われる方ですので、その方からの情報はとてもありがたいです。
病院を受診されるときには、こういう内容を医者から質問をされるだろう、と思っておいてください。
医者が言う「CT検査はいらないよ」「CT検査をしておこう」にはこういう研究が参考になっていることが伝われば嬉しいです。
以上です。ご参考になれば嬉しいです。それでは。
今回の内容の日本のガイドラインはこちらです。
一般社団法人日本小児神経学会 小児頭部外傷時のCT撮像基準の提言・指針
関連書籍
〇こども、外科、救急というまさに今回のテーマと合致している書籍です。
<参考文献>
1)Kuppermann N, et al. Lancet. 2009;374:1160-70.
2)Osmond MH, et al. CMAJ. 2010;182:341-8.
3)Dunning J, et al. Arch Dis Child. 2006;91:885-91.
4)Franz E Babl, et al. Ann Emerg Med. 2018 Jun;71(6):703-710
5)Kentaro Ide, et al. Acad Emerg Med. 2017 Mar;24(3):308-314.